個人再生とは
個人再生とは、裁判所を通じて大幅に返済額を減額できる再生計画が立てられる手続です。現在の借金のうちの「一定の金額(およそ2割、ただし最低100万円)」を、「原則3年(最長5年)の分割払い」で債権者に返済し、「残りの借金については免除」を受け、借金の残高が大幅に減額されます。これは借金を返せない状況になった人が、自己破産をせずに済む、2001年(平成13年)から始まった比較的新しい法的な債務整理の方法です。
個人再生の特徴は何といってもマイホームを守れるという点です。
・マイホームを手放したくない
・仕事上の関係で、自己破産をするわけにいかない
・毎月の債務返済額を減らしたい など
このような方はご検討ください。
個人再生ができる人
個人再生には2種類の方法があります。依頼者の状況により手法が異なります。
小規模個人再生:主に自営業者に適しています
・将来の継続的に収入を得る見込みがある
・債権者および債権額で1/2以上の不同意がない
給与所得再生:主に会社員などの安定収入がある場合に適しています
・将来の継続的に収入を得る見込みがある
・給与などの定期所得があり、所得変動の幅が年間20%以下であること
・破産の免責確定から7年以上経過していること
個人再生のメリット・デメリット
メリット
・再生手続開始決定後、裁判所から各債権者に通知書が送付されることで、貸金業者の取立て行為が規制されます(弁護士に依頼された場合には、弁護士から貸金業者に受任通知を送付することで、より早く貸金業者の取立てが止まります。貸金業法21条1項)。
・返済不能になった理由は問われません(ギャンブルや浪費であっても可)。
・マイホームを手放すことなく債務整理ができます。
・資格制限が無く、仕事にも影響はほぼありません。警備会社の警備員や生命保険会社の生命保険外交員などのお仕事にも支障がありません。
・住宅ローン返済計画の見直しができます。
・分割返済は最大5年まで可能です。
・強制執行、仮差押、仮処分
まず、個人再生手続の開始決定がなされると、給料差押えなど、再生債務者の財産に対する再生債権に基づいて行われている強制執行、仮差押、仮処分等は当然に中止し、新たにこれらの手続を申立てることができなくなります(民事再生法39条1項、26条1項2号)。
また、個人再生の申立と同時に、個人再生手続の開始決定があるまでの間、給与差押えを中止させるため、通常、中止命令(民事再生法26条)などの申立をします。中止命令が出た場合には、給与差押えの手続きは停止します。その後、裁判所の執行係に中止命令などが出たことを上申します。この場合には、既になされていた債権差押えは直ちに失効するのではなく、「中止」となるに過ぎず、差押えの効力は継続します。
これら「中止」の場合、差押え対象となったお金は、勤務先が取り分けて管理するか、法務局に供託され続けます。そしてこのお金は、最終的に個人再生の再生計画案が認可され、確定した時点で初めて債務者にまとめて支払われます。それまで手取り額は元に戻らず、相変わらす低額な給料で生活を維持しなければならないのが原則です。
そこで、給与の手取り額が減ることによって債務者の生活に著しい支障が及んだり積立ができなくなって個人再生に著しい支障が出るおそれがあったりする場合に、再生計画の認可決定前に給与差押えを「失効」させて、債務者の手元に全額払ってもらう方法があります。強制執行の取消命令(民事再生法39条2項)です。そのためには、給与差押さえが中止された後に個人再生の裁判所に対して申立をします。取消命令が出ると、それまで勤務先や法務局に取り分けられていた給料もまとめて受けとることができます。
なお、個人再生申立後は、給与差押えの中止命令を申立てることができ、債権者が給与差し押さえを維持するメリットはほとんどなくなりますので、債権者に差押えの取下げを依頼すると、取り下げに応じてくれる債権者もいます。すると、面倒な「中止命令の申立」や「執行停止の申立」「取消命令の申立」などをしなくても、すぐに給料を全額受け取れるようになります。
開始決定前でも、個人再生の申立て後であれば、住宅とその敷地上の抵当権について、個人再生の申立てよりも先に競売手続が始まっていたような場合、担保権の実行としての競売手続の中止命令の申立て(民事再生法31条、197条)ができます(公租公課に基づく滞納処分などによる競売手続を除く)。
・小規模個人再生において開始決定がなされると、再生債務者が事業者である場合には、事業の継続に不可欠な財産の上に設定された担保権について消滅請求を出すことも可能です(民事再生法148条以下)。
デメリット
・破産手続に比べて手続が煩雑であり、他の債務整理の費用と比較して弁護士等を依頼する場合の費用が高い傾向があります。
・保証人に請求が行きます。個人再生手続により、借金を減額できるのは、申立てをした債務者本人に限られ、保証人は対象になりませんので、保証人が付いている借金については、保証人に請求が行くことになります。保証人も対策をとることが必要です。
・再生手続開始決定のとき・書面による決議に付する旨の決定のとき・再生計画の認可決定のときに官報に個人情報が掲載されますが、これを見る人はあまりいません。
・再生手続が認められなかった等の場合で、破産原因がある場合には、裁判所の職権により破産手続開始決定がなされる可能性があります(牽連破産、民事再生法250条)。
・信用情報機関(ブラックリスト)への登録→信用情報機関によって異なりますが、最大10年間(概ね5年から7年間)登録され、その間金融機関や消費者金融からの借入、クレジットカードの利用が困難になります。ただ、融資に頼らない生活態度を身に付けるという意味では、これをプラスに考えることもできます。なお、それでも貸すという悪質な業者から借りた場合、執拗な取立てを受ける等取り返しのつかない状態に追い込まれる危険性が大きいのでご注意下さい。
・個人再生手続の開始決定がなされても、再生債権に関する訴訟手続は中断しません(民事再生法238条、245条、40条1項)。
・特定の金融機関から借入をしており、給料がその金融機関に振り込まれることになっている場合には、金融機関から勤務先に給与振込についての照会がなされることがありますので、事前に振込先をほかの金融機関に代えておくようお勧めします。
この手続によっても権利変更しない(債務額が減らない)もの
債権者を騙して借入をするなど悪意で加えた不法行為により損害賠償債務を負っている場合や故意又は重大な過失により他人の生命又は身体を害したことにより損害賠償債務を負っている場合、夫婦間、親子間、親族間の扶養、監護義務に関する債務を負っているなどの場合には、債権者の同意がある場合を除き権利変更ができません(法229条3項)。また、租税、社会保険料、給料などの債務は権利変更の対象から除外されています(法119条、122条)。よって、再生計画でも、3年~5年の分割返済が終了した時点で、残額を一括して支払わなければなりません。
弁護士に依頼するメリット
個人再生を申立てた方のほとんどは、弁護士を経由しています。弁護士費用はかかりますが、その分取立てを止めて新しい生活の再建を図ることができますので、トータルで考えると早々に相談をし、依頼をされた方が負担は軽減されます。
・弁護士から貸金業者に受任通知を送付することで、貸金業者の取立てが止まります(貸金業法21条1項)。
・債権者とのやり取り、煩雑な手続や書類作成を弁護士が対応
受任後、債権者には、すべて弁護士が対応します。また、最近審査が厳しくなってきた裁判所にも、すべて弁護士が対応しますので精神的負担を大きく軽減できます。また、専門的な書類作成は弁護士に任せることができます。
個人再生の種類
小規模個人再生と給与所得者等再生があります。
1 小規模個人再生手続
本来、個人事業者主向けの手続ですが、実際には、後述のとおり、給与所得者等再生よりもメリットが大きい部分があるため、給与所得者であってもこの小規模個人再生を利用することが多くなっています。
利用するための要件は次のとおりです。
② 将来にわたり継続的に収入を得る見込みがあること
2 給与所得者等再生手続
本来、サラリーマン向けの手続です。
利用するためには、小規模個人再生の条件①②にプラスして次の要件が必要となります。
個人再生の選択
小規模個人再生と給与所得者等再生の両方の要件を満たす場合、原則として、小規模個人再生を選択するのが原則です。実際にも、9割以上の方が小規模個人再生を選択しています。小規模個人再生の場合、再生計画(民事再生の返済計画)が裁判所に認められるためには、債権者の一定の基準の消極的同意が必要ですが、現在では銀行・消費者金融・信販会社等民間の業者はほとんど反対しないという態度を取っています。そこで、債権者の消極的同意が得られるかどうかをあまり気にする必要がありません。そこで、一般的には、返済額が少ない小規模個人再生の方が有利であるからです。なお、一度選択した後、手続の途中で変更することはできません。
例外的に、給与所得者等再生を選択すべき場合
①再生債権者の頭数の半数以上または再生債権総額の過半数を有する再生債権者の消極的同意(民事再生法230条6項)が得られる見込みがない場合
②再生債務者の可処分所得2年分の額が、
基準債権(債務総額。ただし、民事再生法84条2項各号の利息損害金等、住宅資金特別条項対象債権額及び担保回収見込額を除く)が3000万円以下の場合は、その5分の1の額か100万円の多い方、但し最高300万円(民事再生法241条2項5号、231条2項4号)
3000万円を超え5000万以下の場合はその10分の1の額(民事再生法241条2項5号、231条2項3号)
を下回る場合
などでは、再生計画に対する再生債権者の決議が不要となるメリットを生かして、給与所得者等再生を選択します。
なお、過去に自己破産の免責許可や給与所得者等再生を受けて7年経過していない方は、小規模個人再生しか利用できません(民事再生法239条5項2号)。
個人再生の流れ
① 弁護士へ個人再生の依頼
② 弁護士が債権者に受任通知書を送付
通知が業者に届いた時点で請求が止まります。
③ 個人再生手続の申立て
弁護士と打合せをしながら申立書を作成し、裁判所に提出します。
④ 開始決定
⑤ 債権額の確定
⑥ 弁護士と打合せをしながら再生計画案を作成し借金免除額、残りの借金額を検討します。
⑦ 個人再生計画案を提出
再生計画案を裁判所に提出します。
⑧ 再生計画案に対する書面決議または意見聴取
⑨ 再生計画の認可決定、返済開始
裁判所に申立てをしてから約半年後に返済が始まります。
個人再生手続費用(消費税込み)
(小規模個人再生及び給与所得者等再生)
(1) 着手金
住宅資金特別条項を利用しない場合 33万円
住宅資金特別条項を利用する場合 44万円
※ ほかに実費1万数千円程度と予納金1万2268円(裁判所に納めるもの)が必要になります。
※ 夫と妻、親と子等関係ある複数人からの受任で、同一裁判所での同時進行手続の場合、1人当たりの金額は、上記金額から5万5000円を各々減額した金額。
(2) 報酬金
0円
※ 法人再生は別途ご相談ください。