事業譲渡
事業譲渡は、一定の事業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産の譲渡であり、資産や従業員などを譲渡します。ただし、原則として債務は引き継ぎません(引き継ぐ場合は一定の要件があります。)そこで、契約関係を承継させるためには、契約の相手方の同意が必要です。
株式譲渡との違い
株式譲渡によるM&Aにより、債務者会社の株式を譲渡できる場合はよいのですが、買い手側が、後に簿外債務等が判明するのを嫌がり、株式譲渡(買い取り)方式を取りたがらない場合があります。この場合に、第二会社を設立し、事業譲渡を行う方法があります。
事業譲渡を行う場合のリスク
ただし、債務超過の企業における事業譲渡にはリスクもあります。それは、①詐害行為リスク、②否認リスク、③株主総会リスクです。
① 詐害行為リスクというのは、債権者から、民法424条の詐害行為取消権を行使されるリスクです。事業譲渡は、財産を譲渡することになりますが、それが債務超過状態にある企業が行ったものである場合、その譲渡自体が総債権者を害する行為であり、詐害行為に該当するリスクがあります。
② 否認リスクは、債務者会社が破産したときに、破産管財人に否認権を行使されるリスクです。これも、詐害行為リスクと同様に、破産直前などに事業譲渡がされると、その事業譲渡を否認され、譲渡された事業が債務者会社に戻されてしまいます。
③ 株主総会リスクというのは、事業譲渡において、事業の全部ないし事業の重要な一部の譲渡を行う場合には、株主総会を開いて承認を得なければならないとされている(会社法467条)ことです。株主は、債務者会社の株主であり、事業を譲渡してしまうと、債務者会社は倒産してしまい、株が実質的に紙くずになってしまうことから、株主総会で事業譲渡に対して反対されてしまうというリスクです。
事業譲渡を行う場合のリスクを回避する方法
しかし、これらのリスクは、破産手続、民事再生手続、会社更生手続内であれば解消することが可能です。法的手続内での事業譲渡であれば、詐害行為も否認もありません。また、破産であれば管財人が株主総会を開かずに事業譲渡できますし、民事再生手続では、株主総会を開かなくても裁判所の許可による事業譲渡が可能です。会社更生手続でも株主の同意なしに更生計画内での事業譲渡が可能です。
したがって、事業譲渡にリスクがある場合には、プレパッケージ型(裁判所に法的倒産手続を申立てる前にスポンサーを探しておくこと)の法的倒産手続を選択することにより、リスクを回避できるのです。
事業譲渡で事業再生をお考えの方は、必ず法的リスクを検討しなければなりません。そうでなければ、せっかく再生したと思ったら、訴訟などにより、全てを覆される危険性があるからです。
事業譲渡のメリット・デメリット
メリット
債務超過ではあるけれど、良い人材がたくさんおり、他社にはない独自の技術をもつ会社がある場合、同業他社がこの会社を欲しいと思っても、債務超過ですから会社をまるごと買うとなれば二の足を踏みます。このようなとき、事業譲渡という方法を使えば、買い手は事業の良い部分だけを譲り受けることができます。そして、売り手は、譲渡代金で残った負債の一部を返済した後、清算します。こうすることで、今の事業は譲受会社で新しいスタートを切り、従業員の雇用も守ることができます。
デメリット
権利や義務が当然に移転するわけではないので、譲受会社は、取引先との契約や、従業員の雇用関係事務、不動産の登記などをすべてやり直さなければなりません。ただ、規模が小さい企業の事業譲渡であれば、このデメリットはそれほど問題にならなくなります。
もちろん、免許や許可も引き継げませんから、建設事業の売買であれば、譲受会社がもともと持っている場合は別として、建設業許可を取り直すことになります。建設業法上の経営事項審査については、工事の実績や評点を譲受会社へ引き継げる場合もあり、事前に所轄官庁の取扱いについて調べておく必要があります。また、株式取得の場合と同様に、買い手は買収資金を用意する必要があります。